著作「雑貨力®」より抜粋
雑貨ビジネスのコンサルティング
-業界誌での連載執筆文より-
筆者は“雑貨”ビジネスに対するコンサルティングを生業としている。もちろん、“雑貨”と言っても行政などで定義されている「雑貨工業品」、ホームセンター、スーパーマーケットなどで、「日用雑貨」として扱われている商品群のことではない。
その時代や流行、仕入れ手や作り手のこだわりとねらいを強く反映した高付加価値(感性に訴える)商品群を中心とした“雑貨”。お客様に「かわいい(かっこいい)」「お洒落」「珍しい」「新しい」「楽しい」と支持され購入される商品と言い換えても良いだろう。(例えば本誌で扱われているような商品群。例えばインターナショナル・ギフト・ショーで展示されているような商品群)。
そういった商品を扱っている(扱おうとしている)企業(製造、流通他)に対して各種の助言や指導を行っている。
寡聞にして「雑貨専門のコンサルタント」と名乗っている人や企業を他に知らないが、多分日本で筆者だけが使用している名称だろう。珍しいためか、ちょっと奇異(笑)に思われる場合もあるが、当人はいたって真っ当に相談者(クライアント)の雑貨ビジネスの成功の為に誠心誠意、尽くしているつもりである。
14年というコンサルティング歴は、まだ自慢できるほどの長いものではないが、様々な立場のクライアントから持ち込まれる相談内容のバラエティの豊富さとユニークさはここに書き記す価値がありそうである。
今回、次回と筆者がコンサルタントとして、今まで依頼された様々な事例の中から、比較的多い内容、興味深い相談例や印象に残る経過をたどった指導例を取りあげてみたい。
*各事例は、実際の事例を総括したものであり、特定の企業や個人の具体例ではない。
雑貨に思い入れ
一般に効率(単価が低い、売上の割に手間が大きい)が悪いと言われることが多い雑貨ビジネス。それでもやりたい、やり続けたいと考える動機(理由)は、雑貨商品に対する深い思い入れだ。
「ユニークな作家を見つけ出し、その作品を世に紹介(卸、小売)したい」
「フランスの趣ある商品を売ることを通してその文化を伝えたい」
「ロハス商品をお洒落にデザインして卸売りしたい」
「新しいライフスタイルを提案したい」
「ファッショナブルなイメージのビジネスをやりたい」……。
どんな相談者にも共通することは、自らの何らかの思いを雑貨商品や雑貨店という業態に込めているということだ。特に思い入れがなく、単純なビジネス=商売の数多ある選択肢の中のひとつとして雑貨ビジネスを検討している場合は、「もっと効率の良い」他分野のビジネスを選択することとなってしまう。雑貨ビジネスを営む為には「儲け」ももちろん大切だが、それだけでは始められない、続けられないと言えそうだ。
相談事例:店を開業したい
個人で雑貨店を開業予定の脱サラの若者から、新規事業として雑貨分野の小売(近い将来多店舗展開予定)を検討している大手企業まで、様々な立場の開業志望企業よりの相談や指導依頼。
店舗開業に関するものは、筆者への依頼の過半数を超える。有名雑貨店の華やかなビジネスが常に話題になり、以前に比べ業態の認知が格段に広がったこと。新規参入予定の相談者にとっては雑貨店(小売)が身近なわかりやすい存在であり、具体的なビジネスとしてイメージしやすいことなどが主な理由。
企画製造(メーカー)、輸入(商社)、卸売など、小売以外の雑貨ビジネスをすでに営んでいる(計画している)企業の場合も「まずは店から」「最終的には店」と必ず小売をひとつの重要なステップとして予定していることも特徴的だ。
これは小売よりも供給企業側に主導権がある(ように見える?)他分野のビジネス(例えば文具、ファッション、食品、書籍流通など)に比べると雑貨分野では小売店の持つ影響力が大きいことの証でもある。
相談事例:開業計画の点検
店舗の開業(事業)計画の点検をしてほしいという依頼の場合は、その計画の概要の説明方法(まとめ方)がひとつめのチェックポイント。
口頭でそのプランを聞かせてくれる。概要を記したメモを提示してくれる。分厚く立派な「開業計画書」を持参してくれるなど、いろんな方法での説明があり、相談者により千差万別だ。
もちろん、どんな説明方法でもその開業計画の概要をこちらが理解できればそれを点検、アドバイスすることは可能で何ら問題はない。しかし、後にその計画を自社内で幹部を交えて検討する場合、金融機関へ融資を申し込む場合、関係者(身内、スタッフ、施工業者他)にしっかりと説明したい場合などは、口頭だけでの説明では不十分。
立派な「開業計画書」をつくらずとも、せめてメモ(図参照)に計画の概要を整理して明記しておくことを薦めている。これはどんな小さな規模の個人店であっても開業に向けて最低限必要なことだ。文字や言葉で感覚的なことを説明するにはおのずと限界があるため、写真(雑誌、カタログ)やスケッチなどのビジュアルな資料を豊富に添付することも大切だろう。
次のチェックポイントは、コンセプトワーク全体のあり方。コンセプト(テーマ)、ロケーション(立地、商環境)、ターゲット(想定顧客層)、MD(商品計画)、ショップデザイン(店内外装)等のコンセプトワークの主たる要素全てが相互に矛盾していないかを詳しく見ることになる。
庶民的な商店街の店舗で近隣の住民を対象にしているのに、マニアックな商品ばかりのプラン。ローティーンを対象に愛らしいキャラクターグッズや玩具を中心に扱う予定なのに無味乾燥な味気ないショップデザインなど、客観的な矛盾がある場合には、それをできるだけなくす為のアイディアや方法を提案する。
「競合しそうな、参考になりそうな有名店の存在を知らない」
「平日の夕方は通行量調査をしたことがない」
「販売したい商品の具体的なイメージがない」等、
明らかにリサーチや研究不足の場合は、不足していることを認識してもらい、それらを効率的に行うための各助言も行う。
すでに開業経費(投資)や運営経費、売上や利益計画などの予算面までを計画している場合は、各予算が無駄や無理のない、適正なリアリティのある金額になっているかといったチェックを行う。
まだ予算を計画していない場合は、今後どう策定していくべきかという具体的な手順を説明する。時には、店舗開業支援業者(不動産、内外装、什器備品の販売など)への効率的な見積もり依頼の方法や有利な条件を導きだす交渉法を助言したり、ラッピング用品など消耗品のコストダウンのテクニックなどの直接的にコストを軽減する方法を伝えることもある。
相談事例:店舗診断
すでに営業している店を総合的に良くしたいという依頼の場合。好調な成績で推移しているが更に売りたい前向きな店。成績不振で、このままだと近々閉店しなければならない崖っぷちの店。両極端な状況だが、どちらの場合も最初に行うのが「店舗診断」。
これは、実際に店舗を訪問し、約100項目に渡って、現状を評価分析するというものだ。例を少しあげると
・スタッフの接客内容(表情やふるまいまでも)
・店頭の清掃状況
・店頭サインの効果検証
・倉庫の状態や使い勝手
・販促イベントの内容
・商品構成
・店頭POPの状態
・ディスプレイ、VMD
・広告宣伝の方法や効果
・客数や買上単価の傾向
・売上高、利益率
・各種経費の適正さ
・仕入れ先との契約条件
・人事体系、募集方法や教育他
その内容は商品、店の環境と運営面、ほぼ全てに関してのものである。100という項目数は多く感じられるかも知れないが、店舗の規模が大きい場合、オリジナル商品や直接輸入商品がある場合、小売り以外の業務(卸し等)も複合的に行っている場合などはさらに項目が多くなる。
各項目を精査し、客観的な問題点をあぶり出し、それを改善するための方法を提案するという流れである。全体をつぶさに評価分析することで、隠れたウィークポイントを見つけ出すことが可能だ。
「POPカードが読みにくい」「商品改廃のタイミングが悪い」「スタッフの接客マナーに問題あり」「営業時間や休業日の設定が間違っている」など、細かなものから、時にはオーナーや責任者自身の運営に対する“こころざし”やモラルに関して共に考えていくような場合もある。
もちろん、即効性のある手法だけでなく、徐々に効果が現れるようなものも提案している。開業計画の点検、既存の店舗診断を希望する相談者は、熱心かつ慎重な運営方針の企業が多く、その真摯な姿勢には心から敬意を表したい。
「売上げをとにかく増やしたい」
「バイヤー、店長、幹部を育ててくれ」
「多店舗展開の際のマニュアルを作ってほしい」
「この商品は売れるか?」
「仕入れ先を教えてほしい」
「卸売りをしたい」
「この商品を製造販売する際の関連規制は?」などの、
ポイントを絞った質問事例、小売り以外の業種に関する相談指導事例に関しては次回紹介したい。
著作「雑貨力®」より抜粋